
「連帯保証人を立ててください」
公営住宅の募集要項にこの一文を見つけて、そこで手が止まってしまう。配偶者はもういない。子どもはいないか、頼れる状況ではない。兄弟も高齢になった。頼める相手が思い浮かばず、申し込む前に諦めてしまう——。
実際に、保証人が用意できないという理由で申し込みそのものを断念する例があることは、総務省中部管区行政評価局が東海4県(岐阜・静岡・愛知・三重)の99事業主体を対象に行った調査(令和4年10月5日公表)では、保証人規定を残している85事業主体のうち23事業主体(27.1%)で、保証人を確保できないことを理由とした入居辞退が発生していました。同じ調査で、東海4県のうち実際に保証人規定を削除した14の事業主体を調べた結果、申込みを断念した事例が複数報告されています。低額所得者のための制度が、支援を必要とする人ほど遠ざけてしまうという矛盾です。
でも、諦める前に知っておいてほしい数字があります。国土交通省が毎年公表している全国調査を見ると、保証人がいなくても入居できる道は、思っているよりずっと広いのです。この記事では最新の調査結果をもとに、実態と、保証人が用意できないときの進め方を整理します。
国は2018年から「公営住宅に保証人を前提にしない」方針

国土交通省は、公営住宅を管理する全国の事業主体(都道府県や市町村)に対して、保証人の取扱いを毎年調べています。最新は2025年(令和7年)4月1日時点のもので、全国1,665の事業主体が対象です。
保証人の取扱い(2025年4月1日時点・全国1,665事業主体)
- 保証人を求めない:481(28.9%)
- 保証人を求めるが、免除する場合がある:849(51.0%)
- 保証人を求め、免除することはない:335(20.1%)
上の2つを合わせると79.9%、およそ8割です。保証人を最初から求めない自治体か、求めるけれど免除の余地がある自治体か、そのどちらかということになります。
では、どんな人が免除の対象になるのでしょうか。調査資料には例として、高齢者、障害者、DV被害者、生活保護を受けている方、病気にかかっている方、被災者などで、保証人を確保することが困難なときに免除する場合があると書かれています。
⚠ ここが大切:免除は「自動」ではありません
免除の規定があっても、黙っていて適用されるわけではありません。募集要項に小さく書かれていることも多く、窓口で申し出て初めて手続きが進む場合があります。だからこそ「規定があるかどうか」を自分で確かめることが第一歩になります。
住宅の数で見ると、景色がまったく違う

同じ調査には、もうひとつの数え方が載っています。自治体の数ではなく、管理している住宅の戸数で見た場合です。
全国の公営住宅は約210万戸。そのうち保証人を求めない住宅は69.1%にのぼります。自治体の数では28.9%だったのに、戸数では約7割。この差は、規模の大きい自治体から順に保証人規定をやめてきたことを表しています。
自治体の種類別に見た「保証人を求めない」割合
- 政令指定都市:20市すべて(100%)
- 都道府県:47のうち25(53.2%)
- 中核市:62のうち31(50.0%)
- その他の市町村:1,536のうち405(26.4%)
政令指定都市はすべて、都道府県と中核市は半数が、保証人を求めていません。都市部に住んでいる方、あるいは県営住宅を検討している方は、そもそも保証人が要らない可能性が高いということです。
実例を挙げると、大阪府では2024年(令和6年)3月27日から府営住宅(公営住宅)の保証人が不要になりました(特定公共賃貸住宅は対象外で、引き続き保証人が必要です)。すでに入居していた方の保証人も同じ日に廃止されています。なお緊急連絡先の届出は引き続き必要です。
流れはまだ続いています。同じ調査には「検討状況反映後」の数字も示されており、それによると保証人を求めない事業主体は33.3%、戸数では73.2%になります。
国は2018年から「保証人を前提にしない」方針
この変化には理由があります。国土交通省は2018年(平成30年)3月30日に、自治体が条例をつくるときの手本となる「公営住宅管理標準条例(案)」を改正し、入居手続きにおける保証人の連署する請書提出の義務付けを削除しました。あわせて、身寄りのない単身高齢者など保証人の確保が難しい方の入居に支障が出ないよう、各自治体に適切な対応を求める通知を出しています。
2020年(令和2年)2月20日にも改めて通知が出され、入居を希望する人が努力しても保証人が見つからない場合には、保証人を免除するなど特段の配慮を行うことが各自治体に周知されました。
背景には民法の改正もあります。2020年4月1日に施行された改正民法では、個人が保証人になる根保証契約について、責任の上限額(極度額)を定めなければ契約が無効になることになりました。そのため保証人を求める自治体は、条例などで「家賃の何か月分」といった極度額を設定する必要があります。金額が明示されれば、引き受けてくれる人はさらに減る。国が規定の削除を促してきたのは、こうした事情もあります。
それでも規定が残る理由と、「緊急連絡先」との違い
では、なぜ2割の自治体では免除の余地さえないのでしょうか。総務省の報告書で保証人規定を残している理由として最も多かったのは、保証人がいなくなることで家賃の滞納が増える(収納率が下がる)のではないかという懸念。次に多かったのが、緊急時の連絡先など、家賃の保証以外の役割を保証人に担わせているという事情でした。
ただし同じ報告書は、実際に保証人規定を削除した14の事業主体を調べた結果、家賃収納率に特段の悪化は見られず、規定を削除したことによる支障は特に生じていない(不明と回答した1事業主体を除く)としています。早期のきめ細かな納付指導や、緊急連絡先届の提出で対応しているのが実態です。
ここで、混同されやすい点を整理しておきます。保証人と緊急連絡先は別のものです。
保証人と緊急連絡先の違い
- 保証人:家賃の滞納などについて、金銭的な責任を負う人
- 緊急連絡先:本人に何かあったときに連絡する先。金銭的な責任は負いません
※保証人を廃止した自治体でも、緊急連絡先の届出は引き続き必要とされている場合があります。大阪府営住宅もその例です。
お金の責任を負う保証人は頼みにくくても、「何かあったときに連絡が入るだけ」なら引き受けてもらえる相手はいるかもしれません。遠方の親族、長年の知人、場合によっては支援機関。この違いを知っているだけで、選択肢は広がります。
保証人が用意できないときの、5つの進め方

1. まず、募集要項の「保証人」の欄を確認する
保証人を求めない自治体なら、この時点で悩みは消えます。求める自治体でも、免除に関する記載が併記されていることがあります。取扱いは自治体ごとに違うので、必ずご自身が申し込む自治体の要項を見てください。
2. 窓口に「免除の規定はありますか」と聞く
要項を読んでも判断がつかないときは、住宅を管理している自治体の窓口に直接聞くのが早いです。県営住宅なら都道府県の住宅課、市営住宅なら市の住宅担当課です。高齢であること、身寄りがないことは、免除の対象として例示されている事情です。遠慮せず、事実として伝えてください。
3. 緊急連絡先になってもらえる人を、先に考えておく
保証人が免除されても、緊急連絡先は求められることが多いです。あらかじめ心当たりを整理しておくと、手続きが滞りません。
4. 居住支援協議会・居住支援法人に相談する
住まいの確保に配慮が必要な方を支える仕組みとして、住宅セーフティネット法に基づく居住支援法人があります。都道府県が指定する法人で、住まいの情報提供や相談、入居後の見守りといった生活支援、家賃債務保証などを行います。2025年10月1日からは、入居者からの委託に基づく残置物の処理も業務に加わりました。
また、自治体や不動産関係団体、支援団体が連携する居住支援協議会も各地に設けられています。主な対象は民間の賃貸住宅ですが、住まい全般の相談窓口として、公営住宅を検討する段階でも役に立ちます。一覧は国土交通省のサイトで確認できます。
5. 介護や生活の相談先も、あわせて頼る
住まいの問題は、単独では解決しないことがあります。地域包括支援センターや市区町村の福祉担当窓口は、住宅の担当課とつながっていることが多く、事情を説明する窓口をひとつ増やしておくと動きやすくなります。
この分野は制度も動いています。2026年6月に成立した社会福祉法等の一部を改正する法律で、頼れる身寄りがいない高齢者などに対する日常生活・入院等の手続・死後事務の支援を行う事業が、第二種社会福祉事業として法律に位置づけられました(施行は原則2027年4月1日。この部分は公布後2年以内に政令で定める日から)。あわせて相談体制の整備も図られます。「身寄りがないこと」を前提に支える仕組みが、これから整っていく方向です。
おわりに:申し込む前に、諦めないでください
公営住宅は、住宅に困っている低額所得者のために、国と自治体が協力して低い家賃で提供する住まいです。身寄りがないことを理由に、その入り口で止まってしまうのは制度の趣旨に合いません。国もそう考えて、8年前から自治体に見直しを求めてきました。
そして実際に、変化は進んでいます。政令指定都市は全市が保証人を求めておらず、住宅の戸数では約7割。保証人を最初から求めない自治体か、要件に当てはまれば免除される可能性がある自治体か、そのどちらかということになります。
この記事のまとめ
- 2025年4月1日時点で、保証人を求めない事業主体は28.9%、免除する場合があるのは51.0%。合わせて約8割。
- 住宅の戸数で見ると、保証人を求めない住宅は69.1%。政令指定都市は20市すべてが求めていない。
- 免除の対象として、高齢者、障害者、DV被害者、生活保護受給者、病気の方、被災者などが例示されている。
- ただし免除は自動ではない。要項の確認と窓口への申し出が必要。
- 国は2018年から『保証人の確保を入居の前提としない』方向への転換を自治体に求めています。ただし標準条例(案)はあくまで各自治体が条例をつくるときの参考例で、実際に保証人規定をなくすかどうかは自治体ごとの判断です。そのため対応が分かれています。
- 保証人と緊急連絡先は別のもの。緊急連絡先は金銭的な責任を負わない。
- 相談先は自治体の住宅担当課、居住支援協議会・居住支援法人、地域包括支援センターなど。
まずは、お住まいの自治体の募集要項をもう一度開いてみてください。そこに免除の一文が見つかるかもしれません。見つからなくても、電話一本で確かめられます。申し込む前に諦めてしまうのが、いちばんもったいない選択です。
📋 参考・参照情報
- 【国土交通省】 公営住宅への入居に際しての保証人の取扱い等に関する調査結果について(令和7年4月1日時点の調査結果、関係通知)
- 【国土交通省】 公営住宅への入居に際しての保証人の取扱い等に関する調査(R7.4.1時点)(事業主体別・管理戸数別の内訳)
- 【総務省 中部管区行政評価局】 保証人の確保が困難な人の公営住宅への入居に関する調査 結果報告書(標準条例案の改正、免除の配慮要請、改正民法と極度額)
- 【国土交通省】 住宅セーフティネット制度(居住支援法人・居住支援協議会の概要、令和7年10月からの残置物処理業務の追加)
- 【国土交通省】 住宅確保要配慮者居住支援法人について(制度の概要・居住支援法人一覧)
- 【大阪府】 大阪府営住宅(公営住宅)の保証人が不要になりました(令和6年3月27日からの見直し、緊急連絡先の取扱い)
- 【厚生労働省 老健局】 社会福祉法等の一部を改正する法律について(報告)社会保障審議会 介護保険部会 資料(身寄りのない高齢者等への支援事業の位置づけ)
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。
※本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。公営住宅の入居資格、保証人や緊急連絡先の取扱い、免除の要件は、住宅を管理する自治体の条例等によって異なります。実際の申込みにあたっては、必ずお住まいの自治体の募集要項および担当窓口にご確認ください。