大切なのは、我慢して耐えることではなく、「言い方を少し変える」こと。同じ場面でも、声かけを工夫するだけで、お互いがぐっと楽になります。この記事では、よくある困りごとごとに、今日から使える具体的な声かけ例を紹介します。
声かけの前に。大切にしたい3つの姿勢
認知症の方には、その人なりの「見えている世界」があります。事実を正そうとするより、その世界に寄り添うことが、安心につながります。
- 否定しない:「違う」「さっき言った」と正さず、まず気持ちを受け止める。
- 急かさない:ゆっくり、短い言葉で、一つずつ伝える。
- 笑顔と安心を渡す:内容より「安心できる雰囲気」が何より伝わる。
Q1. 同じことを何度も聞かれる。どう答える?
本人にとっては、毎回が「初めての質問」です。覚えていないことを責められると、不安や混乱が強まってしまいます。
❌ こう言うと逆効果:「さっきも言ったでしょ」「何回聞くの」
⭕ こう言い換える:「○○だよ」と、はじめて聞かれたように落ち着いて答える。何度も続くときは、メモや貼り紙にして見える形にしておくと安心してもらえます。
Q2. 「財布を盗られた」と言われる
大切な物が見つからない不安が、「盗られた」という形であらわれることがあります。身近な家族が疑われてつらい場面ですが、正面から否定すると、かえって相手を追い詰めてしまいます。
❌ こう言うと逆効果:「盗ってないよ」「自分でなくしたんでしょ」と反論する
⭕ こう言い換える:「それは困ったね、一緒に探そう」と気持ちに寄り添い、一緒に探す。本人が見つけられるよう、さりげなく誘導できると安心につながります。
Q3. 夕方になると「家に帰る」と言い出す
自宅にいるのに「家に帰りたい」と訴える——これは、不安やそわそわした気持ちのあらわれであることが多いものです。「ここが家でしょ」と論理で返しても、なかなか落ち着きません。
❌ こう言うと逆効果:「ここがあなたの家でしょ」と事実を突きつける
⭕ こう言い換える:「そうだね、その前に少しお茶でも飲もうか」と気持ちを受け止めつつ、別のことへ自然に意識を向ける。安心できると、訴えがやわらぐことがあります。
Q4. 入浴や着替えを嫌がる
「面倒」「恥ずかしい」「寒い」など、嫌がるのには本人なりの理由があります。無理に進めると、次からもっと拒否が強くなってしまいます。
❌ こう言うと逆効果:「早く入って」「汚いから」と急かす・無理強いする
⭕ こう言い換える:「あったかいお湯、気持ちいいよ」と前向きに誘う。タイミングを変える、声かけ役を変えるなど、ハードルを下げる工夫も有効です。
やってしまいがちな、3つの「逆効果」対応
よかれと思っても、次の対応は不安や混乱を強めてしまいがちです。気づいたときに、少し意識してみてください。
- 否定・訂正する:「違う」「さっき言った」は、本人の世界を否定する言葉。
- 叱る・責める:強い口調は、内容より「怖い」という感情だけが残ります。
- 無理強いする:力で進めると、信頼関係そのものが揺らいでしまいます。
うまくいかない日があって、当たり前
声かけを工夫しても、うまくいかない日は必ずあります。でも、それはあなたの努力が足りないからではありません。完璧を目指さず、できたときに自分をほめてあげてください。
そして、症状への対応に困ったときや、心身がつらいときは、一人で抱え込まないこと。担当のケアマネジャー、かかりつけ医、地域包括支援センターに相談すれば、専門的なアドバイスや支えを得られます。同じ立場の人が集まる「家族会」も、心の支えになります。
この記事のまとめ
- 事実を正すより、本人の「見えている世界」に寄り添う。
- 同じ質問には、はじめて聞かれたように落ち着いて答える。
- 「盗られた」には反論せず、一緒に探して気持ちに寄り添う。
- 否定・叱責・無理強いは逆効果。安心できる雰囲気を渡す。
- うまくいかない日があって当然。困ったら専門職や家族会へ。
※本記事は2026年6月時点の一般的な情報・考え方をまとめたものです。認知症の症状やあらわれ方には個人差があり、適切な対応も人それぞれ異なります。気になる症状や対応の難しさがあるときは、かかりつけ医、担当のケアマネジャー、お住まいの地域包括支援センターなどの専門職にご相談ください。
