「そろそろ介護ベッドを考えたほうがいいのかな?」
ご家族の介護が始まったとき、このように迷う方は少なくありません。
布団から起き上がるのがつらそう。
立ち上がるときに、手を貸す場面が増えてきた。
介助する家族の腰や身体の負担も心配になってきた。
そんなときに候補に上がるのが、いわゆる「介護ベッド」です。
ただ、介護ベッドと聞くと、
「普通の電動ベッドと何が違うの?」
「介護保険で借りられるの?」
「要介護2以上でないと使えないの?」
「家に置けるかどうか、誰に相談すればいいの?」
と、疑問が出てくる方も多いのではないでしょうか。
ベッドはクッションや杖のように「少し試しに置いてみる」とはいきにくい福祉用具です。部屋の広さ、本人の動きやすさ、介助のしやすさ、安全面まで考えて選ぶ必要があります。
この記事では、介護保険で貸与対象となる「特殊寝台」、いわゆる介護ベッドについて、2026年時点で確認できる公的情報をもとに、対象者・費用・選び方・注意点をわかりやすく整理します。

まず結論:介護保険の「特殊寝台」は、電動ベッドなら何でもよいわけではありません
介護保険の福祉用具貸与における「特殊寝台」は、厚生労働省の告示で定められた福祉用具の種目です。
厚生労働省「福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」では、特殊寝台について、次のように定められています。
特殊寝台は、サイドレールが取り付けてあるもの、または取り付けることが可能なものであり、さらに次のいずれかの機能を有するものです。
・背部または脚部の傾斜角度を調整できる機能
・床板の高さを無段階に調整できる機能
出典:厚生労働省「福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999420&dataType=0&pageNo=1
つまり、見た目が似ていても、家電量販店などで販売されている一般的な電動ベッドが、そのまま介護保険上の特殊寝台として扱われるとは限りません。
大切なのは、「便利そうだから選ぶ」ことではなく、
本人の起き上がりを支えやすいか。
立ち座りのしやすさにつながるか。
介助する人が無理な姿勢になりにくいか。
家の環境に合っているか。
安全に使えるか。
こうした視点で確認することです。
介護ベッドと特殊寝台の違い
一般的には「介護ベッド」や「電動ベッド」と呼ばれることが多いですが、介護保険制度上は「特殊寝台」という福祉用具の種目があります。
一般に「電動ベッド」「介護ベッド」と呼ばれるものの中でも、介護保険の福祉用具貸与では、厚生労働省告示で定める機能・条件に合うものが「特殊寝台」として扱われます。
制度上のポイントは、サイドレールが取り付けてある、または取り付けることが可能であることに加え、背部・脚部の傾斜角度を調整できる機能、または床板の高さを無段階に調整できる機能のいずれかを備えていることです。
また、同じ厚生労働省告示では、特殊寝台付属品についても定められています。特殊寝台付属品とは、マットレス、サイドレール等であって、特殊寝台と一体的に使用されるものです。
出典:厚生労働省「福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999420&dataType=0&pageNo=1
そのため、「家にあるベッドに、介護保険で手すりだけ付けたい」「マットレスだけ借りたい」という場合も、元のベッドや付属品が制度上どのように扱われるかを確認する必要があります。
ここは自己判断が難しいところです。迷ったら、担当のケアマネジャーや福祉用具貸与事業者に確認しましょう。

サイズ選びは、寝心地だけで決めない
介護ベッドを選ぶとき、幅や長さはとても大切です。
ただし、「広いほうがゆったりして良い」とだけ考えると、在宅介護では困ることがあります。
ベッドの幅が広いほど、本人はゆったり休みやすくなる一方で、介助者が近づきにくくなったり、部屋の動線が狭くなったりすることがあります。
車いすや歩行器を使う場合は、ベッド周りの通路や方向転換のしやすさも大切です。本人の寝心地だけでなく、介助のしやすさ、部屋の広さ、生活動線を含めて考える必要があります。
なお、消費税が非課税となる身体障害者用物品としての特殊寝台には、介護保険の福祉用具貸与とは別の要件があります。
「消費税法施行令第十四条の四の規定に基づき内閣総理大臣及び厚生労働大臣が指定する身体障害者用物品及びその修理」では、非課税対象となる特殊寝台について、幅100cm以下、サイドレールの取り付け、キャスター条件などが示されています。
出典:厚生労働省「福祉用具|身体障害者用物品の非課税扱いについて」
「消費税法施行令第十四条の四の規定に基づき内閣総理大臣及び厚生労働大臣が指定する身体障害者用物品及びその修理(令和八年三月三十一日最終改正)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/index.html
これは、介護保険の福祉用具貸与における特殊寝台の定義とは別の基準です。
そのため、「幅が100cmを超えると介護保険で絶対に借りられない」という説明は正確ではありません。
税の扱い、レンタル費用、取り扱い製品は事業者によって異なるため、見積もり時に確認してください。
部屋に介護ベッドを置けるかも確認しよう
介護ベッドを考えるとき、多くの方が心配するのが「家の部屋に置けるのか」という問題です。
ここで見るべきなのは、ベッド本体のサイズだけではありません。
ベッドの横で介助できるスペースがあるか。
車いすや歩行器が通れるか。
扉や家具の開け閉めを邪魔しないか。
コンセントの位置は問題ないか。
玄関、廊下、階段、エレベーターから搬入できるか。
こうした点も確認が必要です。
搬入方法は、製品や住環境によって異なります。設置前に、福祉用具貸与事業者へ搬入経路、設置場所、必要な作業スペースを確認してください。
搬入や設置が難しい場合、当日の調整が必要になることもあります。事前に確認しておくと安心です。

モーター数は「多ければ正解」ではない
介護ベッドには、背上げ、高さ調節、脚上げなどの機能があります。製品によって、1モーター、2モーター、3モーターなどの違いがあります。
ここで大切なのは、「介護度が高いから必ず3モーター」と決めつけないことです。
背上げが必要なのか。
高さ調節が必要なのか。
脚上げが必要なのか。
本人の身体状況と介助の場面に合っているか。
この視点で考えます。
たとえば、背上げ機能は、起き上がりやベッド上で姿勢を整える場面で使われることがあります。食事や服薬などに関わる姿勢調整は、本人の状態によって注意点が異なるため、必要に応じて医師・看護師・ケアマネジャーなどに確認してください。
高さ調節機能がある場合は、介助する人が無理な姿勢になりにくい環境づくりにも関係します。
脚上げ機能は、姿勢調整の一つとして使われることがあります。ただし、脚のむくみの原因は人によって異なります。むくみが強い場合、急に悪化した場合、息切れや痛みを伴う場合などは、福祉用具の調整だけで判断せず、医師や看護師に相談してください。
ここは、読者の不安をあおるためではなく、安全に使っていただくための大切な確認です。
高さ調節機能がある場合は、本人にも介助者にも大切
特殊寝台には、背上げ・脚上げ機能を備えたものや、床板の高さを調整できるものがあります。
なかでも高さ調節機能があるベッドでは、本人の立ち上がりや移乗、介助者の姿勢に関わるため、使い方を確認しておくことが大切です。
ベッドが低すぎると、立ち上がるときに大きな力が必要になることがあります。反対に高すぎると、足が床につきにくくなり、立ち上がりや移乗が不安定になることがあります。
また、介助する側にとっても高さ調節は大切です。
おむつ交換、着替え、体位変換などを低い位置で続けると、介助する人が無理な姿勢になりやすくなります。介護は毎日のことなので、小さな負担が積み重なる前に、環境を整えることが大切です。
介護は、気合いだけで続けるものではありません。使える道具で負担を減らすことは、本人にとっても家族にとっても大事な選択です。

要支援・要介護1は原則対象外。ただし例外あり
特殊寝台は、介護保険の福祉用具貸与の対象種目です。
ただし、要支援1・2、要介護1の方については、特殊寝台とその付属品を含む一部の福祉用具が、原則として介護保険給付の対象外とされています。
厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」では、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ以外の福祉用具貸与について、要支援および要介護1の方は原則給付対象外と説明されています。
出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
ただし、ここで大切なのは「原則」という言葉です。
厚生労働省の資料「要支援・要介護1の者に対する福祉用具貸与について」では、要介護認定の基本調査結果等に基づく判断がある場合や、市町村が医師の所見・ケアマネジメントの判断等を書面等で確認して要否を判断した場合には、例外的に給付が可能とされています。
特殊寝台については、例外給付の判断に関わる状態像として、「日常的に起きあがりが困難な者」「日常的に寝返りが困難な者」などが示されています。
出典:厚生労働省「要支援・要介護1の者に対する福祉用具貸与について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000875875.pdf
つまり、要支援・要介護1だから必ず使えない、とは言い切れません。
ただし、希望すれば必ず認められるものでもありません。本人の状態、医師の所見、ケアマネジメント、市町村の確認などが関係します。
ご家族が最初にすることは、役所に急いで行くことではなく、まず担当のケアマネジャーに相談することです。担当ケアマネジャーがいない場合は、お住まいの地域包括支援センターや市区町村の介護保険担当窓口に相談してください。
介護ベッド・特殊寝台の費用はどれくらい?
介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、原則として費用の1割です。ただし、一定以上の所得がある方は2割または3割になります。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
特殊寝台の実際のレンタル費用は、製品、機能、付属品、地域、事業所によって変わります。
また、ベッド本体だけでなく、マットレス、サイドレール、介助バー、床ずれ防止用具などを一緒に使う場合は、それぞれの貸与費用も確認が必要です。
厚生労働省は、福祉用具について商品ごとの全国平均貸与価格および貸与価格の上限を公表しています。厚生労働省「福祉用具・住宅改修」ページでは、「貸与価格の公表について(令和8年4月10日更新)」として、最新公表分の「福祉用具の全国平均貸与価格及び貸与価格の上限一覧(令和8年10月〜)」が掲載されています。
出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakimitsuite/bunya/0000212398.html
※上記URLが開けない場合は、以下の厚生労働省ページから「貸与価格の公表について」を確認してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
ただし、一覧に掲載されている価格は制度上の公表情報であり、実際に利用する際の自己負担額は、利用予定の製品名、付属品、事業所の見積もり、本人の負担割合によって変わります。
そのため、この記事では一律の月額費用は断定しません。
正確な費用を知るには、ケアマネジャーや福祉用具貸与事業者にベッド本体と付属品を含めた見積もりを確認してください。
購入とレンタル、どちらがいい?
「長く使うなら買ったほうが安いのでは?」と思う方もいるかもしれません。
この疑問はとても自然です。大きな物なので、家計のことも気になりますよね。
ただ、介護ベッドは、身体の状態に合わせて必要な機能が変わることがあります。
最初は背上げ中心でよかったけれど、あとから高さ調節や脚上げが必要になる。
マットレスを見直したほうがよい場面が出てくる。
ベッド周りの手すりや付属品を調整したくなる。
こうした変化は、在宅介護では起こり得ます。
レンタルの場合も、身体状況や生活環境が変わったときは、担当のケアマネジャーや福祉用具貸与事業者に、用具の見直しが必要か相談してください。
一方で、購入が合うケースもあります。どちらが良いかは、利用期間の見込み、身体状態の変化、メンテナンス、費用負担を含めて考える必要があります。
迷ったら、金額だけで決めず、「今後の変化に対応しやすいか」も一緒に確認してください。

介護ベッド・特殊寝台のメリットと注意点
特殊寝台の主なメリットは、本人と介助者の両方を支えられることです。
本人にとっては、起き上がりや立ち座りの環境を整えやすくなります。介助者にとっては、ベッドの機能を適切に使うことで、無理な姿勢になりにくい環境をつくりやすくなります。
また、背上げや脚上げを使うことで、ベッド上での姿勢を調整しやすくなる場合があります。
ただし、床ずれ予防を介護ベッドの機能だけで判断するのは適切ではありません。介護保険上も、床ずれ防止用具は特殊寝台とは別の福祉用具種目として定められています。
必要に応じて、床ずれ防止用具、体位変換、皮膚状態の観察、専門職への相談を組み合わせて考えることが大切です。
出典:厚生労働省「福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999420&dataType=0&pageNo=1
デメリットとして大きいのは、やはり設置スペースです。
布団のように畳んで押し入れにしまうことはできません。置いた瞬間から、部屋の中でしっかり存在感があります。
だからこそ、導入前に設置場所、動線、介助スペース、搬入経路を確認することが大切です。
サイドレールは便利。でも安全確認が必要
サイドレールは寝具の落下を防いだり、ベッド周りの安全対策として使われたりすることがあります。
ただし、本人の状態や取り付け方、ベッドとの組み合わせによっては、すき間に頭、首、手足が入り込む事故につながるおそれがあります。
消費者庁の「介護ベッドと柵や手すりとの間に首などが挟まれる事故に注意」でも、ベッドと柵・手すりのすき間、古い製品の使用、電動操作時の挟み込みに注意するよう呼びかけています。
出典:消費者庁「介護ベッドと柵や手すりとの間に首などが挟まれる事故に注意」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_038/
認知症がある方、夜間にひとりで動こうとする方、身体を自分で支えにくい方では、サイドレールの本数や位置、ベッドの高さを慎重に考える必要があります。
とくに古いベッドや手すりを使用している場合は、新JIS規格への適合状況や、ベッド本体・マットレス・サイドレール・介助バーの組み合わせによるすき間を、レンタル事業者や販売事業者に確認してください。
サイドレールは「付ければ安心」ではありません。本人の状態に合わせて、すき間、動き方、転倒リスクを確認しながら使うものです。
介護ベッド・特殊寝台の導入を考えるタイミング
では、どんなタイミングで介護ベッドを検討すればよいのでしょうか。
たとえば、こんな場面が増えてきたときです。
布団から起き上がるのに時間がかかる。
立ち上がりのときにふらつく。
夜間のトイレ移動が心配。
食事や服薬をベッド上で行うことが増えた。
介助する家族の腰や身体に負担が出てきた。
転落やずり落ちが心配になってきた。
介護ベッドは、状態が大きく悪化してからだけ検討するものではありません。起き上がりや立ち上がり、介助の負担が気になり始めた段階で、早めに相談しておくと安心です。
起き上がりや立ち上がりの環境を整えることで、本人の動作を支えやすくなる場合があります。
もちろん、ベッドに頼りすぎて活動量が減らないように、日中の過ごし方やリハビリ、生活動作とのバランスも大切です。
介護ベッドは、本人の生活動作や介助のしやすさを支えるための環境づくりのひとつとして考えると、少し見方が変わるかもしれません。

まとめ
介護ベッド・特殊寝台は、ただ寝るためのベッドではありません。
本人が少しでも起き上がりやすくなるように。
立ち座りの不安を減らせるように。
介助する家族やスタッフの身体を守れるように。
そして、家の中で安全に過ごせるように。
そんな目的を持った、大切な福祉用具です。
ただし、介護ベッドは「便利そうだから」「大きいほうが安心だから」だけで選ぶものではありません。
本人の身体の状態、部屋の広さ、介助する人の負担、サイドレールの安全性、費用、介護保険の対象になるかどうか。いくつかの確認が必要です。
少し面倒に感じるかもしれません。でも、ここを丁寧に確認しておくことで、導入後の不安や行き違いを減らしやすくなります。
気になるサインが出てきたら、まずは担当のケアマネジャーに相談してください。担当者がいない場合は、地域包括支援センターや市区町村の介護保険担当窓口でも相談できます。
介護は、がんばりすぎる前に、道具と人の力を借りていいものです。
介護ベッドは、本人の起き上がりや立ち座り、介助のしやすさを支えるための選択肢のひとつです。本人と家族が、安心して暮らしを続けるために、必要に応じて専門職へ相談しながら検討していきましょう。
本文内で使用した公的情報・一次情報URL一覧
厚生労働省「福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999420&dataType=0&pageNo=1
厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具情報システム」
https://www.techno-tais.jp/
厚生労働省「福祉用具|身体障害者用物品の非課税扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/index.html
厚生労働省「要支援・要介護1の者に対する福祉用具貸与について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000875875.pdf
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
消費者庁「介護ベッドと柵や手すりとの間に首などが挟まれる事故に注意」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_038/