なぜ今、介護の現場にAIと補助金が必要なのか
背景にあるのは、深刻な人手不足です。厚生労働省の推計では、2026年度に必要な介護職員は約240万人。2022年度(約215万人)と比べて約25万人を追加で確保する必要があるとされています。高齢者人口が2040年ごろにピークを迎えるなか、「人を増やす」だけでは追いつかず、一人あたりの負担を減らす=生産性を上げる手段として、AI・ICTの活用と、それを後押しする介護AI補助金に期待が集まっています。
2026年9月に公表された「令和8年版 厚生労働白書」では、医療・介護へのテクノロジー(AI・ロボット等)の導入について、国民の7割以上が肯定的(「賛成だ」+「やや賛成だ」)という調査結果も示されました。社会全体として、介護×テクノロジーへの受け入れが進んでいることがうかがえます。
どこまで普及している?(分野でかなり差があります)
厚生労働省の調査(居住系・入所系サービスの事業所が対象)では、技術の種類によって導入状況に大きな差があります。
- 介護業務支援機器(記録・情報共有など):導入率 56.4%(令和4年度は10.2%で、短期間に大きく伸びた)
- 見守り支援機器:導入率 47.2%(令和4年度は30.0%)
- 移乗・移動・排泄などの身体介助ロボット:まだ限定的で、これからの分野
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の効果検証に関する調査研究」(令和7年度実施)、令和8年版厚生労働白書。記録・見守り・情報共有を中心に導入が進む一方、身体介助の分野はこれからという傾向です。
つまり「介護のAI」とひとくくりにされがちですが、記録や見守りはすでに現実的な選択肢になっている一方、身体介助を担うロボットはまだ普及の入口。まず費用対効果が見えやすいところから導入が進んでいるのが実情です。

介護のAI導入にかかるお金の目安
「いくらかかるのか」は機器や規模によって大きく変わりますが、ざっくりした目安を知っておくと、介護AI補助金のありがたみが分かります。
- 見守りセンサー:1台あたり数万〜十数万円程度が目安。ベッドや居室の数だけ必要になり、施設だとまとまった金額に。
- 介護記録・ケア記録ソフト(ICT):初期費用に加え、月額の利用料がかかるものが多い。
- 移乗・移動支援などの介護ロボット:1台数十万〜百万円台になることも。
※価格は製品・台数・構成によって大きく変わります。あくまで目安として、正確な金額は見積もりでご確認ください。
こうした費用のかなりの部分を公的補助でまかなえるのが、次に紹介する制度です。
介護AI補助金の中心「介護テクノロジー導入支援事業」とは
事業所が使う介護AI補助金の中心になるのが、国の枠組みである「介護テクノロジー導入支援事業」(以前は別々だった「介護ロボット導入支援」と「ICT導入支援」を一本化したもの)です。国が大枠を定め、実際の募集・交付は各都道府県が行います。2026年度(令和8年度)は、国の令和7年度補正予算を財源に「介護テクノロジー定着支援事業」などの名称で実施している県が多くなっています。
制度のポイント(2026年度・令和8年度の例)
- 補助率は、多くの都道府県で4/5(費用の8割を補助、事業者の負担は2割というイメージ)。ただし項目ごとに上限額があり、上限を超えた分は自己負担です。財源や事業の区分によって補助率が異なる場合もあります。
- 対象になるもの:見守りセンサーなどの介護ロボット、介護記録・情報共有ソフト、バックオフィスソフト、インカムなど。Wi-Fi環境の整備やタブレットは、主となる機器と併せて導入する場合に対象とする県が多くなっています。
- 対象になるのは主に「事業者」:介護保険サービスの事業所・施設などが申請者です。
- 障害福祉の分野にも同様の支援があります(例:島根県の令和8年度は国1/2・県1/4・事業者1/4など、介護とは補助の構成が異なります)。
⚠ ここが大切:この介護AI補助金は「ご家庭・個人」は直接の対象ではありません
「介護テクノロジー導入支援事業」は、あくまで介護事業所・施設向けの制度です。ご自宅で介護されているご家族が個人として申請してセンサーを買う、という使い方はできません。ご家庭向けには、次の章で紹介する別の入口があります。
介護AI補助金は都道府県で「上限額」も「締切」も違う
国の枠組みは共通でも、細かな上限額や申請期間は都道府県ごとに違います。上限額は「1事業所いくら」と一律ではなく、導入するものの種類(メニュー)ごとに決まっているのが一般的です。令和8年度の各県の募集では、たとえば次のような水準です。
- 介護ロボット等:1機器あたり30万円(移乗支援・入浴支援などは100万円)
- 介護ソフト・バックオフィスソフト:職員数などに応じて100万〜250万円程度
- 複数の機器を組み合わせる「パッケージ型」:1事業所あたり上限1,000万円程度(国の枠組みでは400万〜1,000万円の範囲で県が設定)
- 申請期間は春〜夏(おおむね4〜8月ごろ)に締め切る県が多く、2026年10月時点で、令和8年度の募集の多くはすでに終了しています。
- 応募が予算を上回った場合は、補助額や台数が調整されることがあります。
「隣の県ではこうだった」が自分の県にそのまま当てはまるとは限りません。介護AI補助金を使うなら、まずはお住まいの都道府県の最新の募集要領を確認するのが確実です。全都道府県に「介護生産性向上総合相談センター」が設置されているので、次年度の募集に向けた相談もできます。

家族・個人が使える介護AIの支援と入口
ご自宅で介護をしていると、「施設向けの介護AI補助金はあるのに、わが家は対象外なの?」と感じるかもしれません。個人が直接使える介護AI補助金はありませんが、ご家庭には別の入口があります。
① 介護保険の「福祉用具」のしくみ
要介護・要支援の認定を受けていれば、一部の福祉用具を介護保険でレンタル(貸与)したり、入浴関連など決められた品目を購入費の支給を受けて用意したりできます。ただし、使える品目は要介護度によって決まっています。たとえば見守り系の「認知症老人徘徊感知機器」は、要支援1・2と要介護1の方は原則対象外です。自己負担は原則1割(所得により2〜3割)なので、まずはケアマネジャーに相談するのが近道です。
② 自治体独自の見守り機器などの助成
市区町村によっては、高齢者の見守り機器や緊急通報装置などに独自の助成・貸与制度を設けている場合があります。内容は自治体ごとに大きく異なるため、お住まいの市区町村の高齢福祉担当や地域包括支援センターで確認してみてください。
③ 無料で使えるAIから試す
お金をかけずに始められるものもあります。スマホの音声アシスタントや見守りアプリ、服薬や予定のリマインドなど、身近なAI機能は介護の負担軽減に役立ちます。まずは手元のスマホでできることから、というのも立派な一歩です。
介護AI補助金の申請の流れと注意点
事業所が「介護テクノロジー導入支援事業」の介護AI補助金を使う場合の、おおまかな流れは次のとおりです。
- 1. 県の募集を確認:都道府県の最新の募集要領・対象機器・期間をチェック。
- 2. 計画書を作成:どの課題を、どの機器で、どう改善するかをまとめる。事前に改善計画の提出を求める県もあります。
- 3. 県へ申請:必要書類をそろえて期間内に提出。
- 4. 導入・運用:交付決定後に導入し、実績を報告。補助金は実績報告の後に支払われるのが一般的なので、いったん自己資金で支払う前提で準備を。
⚠ つまずきやすいポイント
- 交付決定(採択)より前に契約・購入すると対象外になる県が多くあります(例:宮城県)。対象となる期間の扱いは県によって違うので、発注の前に必ず要領で確認を。
- 応募が多いと補助額の調整などがあり、締切も早めです。募集が始まったら早めに動く。
- 対象経費・対象機器は県ごとに違う。「使えると思っていたら対象外だった」を防ぐため、申請前に必ず要領で確認を。
まとめ|介護AI補助金を賢く活用しよう
介護のAI導入は「高い」というイメージがありますが、介護AI補助金という公的な支援を知っているかどうかで負担は大きく変わります。最後に要点を整理します。
この記事のまとめ
- 人手不足を背景に、介護×テクノロジーは国も後押し(令和8年版厚労白書では、医療・介護へのテクノロジー導入に国民の7割以上が肯定的)。
- 事業所向けの介護AI補助金の中心は国の「介護テクノロジー導入支援事業」。2026年度は多くの県で補助率4/5(上限額あり)。
- 上限額はメニューごとに決まっている(介護ロボット1機器30万〜100万円、パッケージ型は1事業所1,000万円程度など)。締切は春〜夏が多く、令和8年度分の多くはすでに終了。
- ご家庭は、介護保険の福祉用具・自治体の助成・無料のAI機能が入口。
- まずは、事業所なら県の相談窓口、ご家庭ならケアマネ・地域包括支援センターへ。
「わが家・わが事業所だと、何にいくら使えるのか」。その第一歩は、お住まいの地域の窓口に聞いてみることです。介護AI補助金は年度ごとに更新されるので、最新情報を確認しながら、使えるものはしっかり活用していきましょう。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成しています。補助金の内容・補助率・上限額・申請期間などは年度や自治体によって変わり、今後変更される可能性があります。具体的な手続きやご家庭・事業所の状況については、お住まいの自治体の窓口や専門家にご確認ください。
📋 参考・参照情報
- 【厚生労働省】 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について(2026年度 約240万人/+約25万人)
- 【厚生労働省】 令和8年版 厚生労働白書(2026年9月29日公表)
- 【厚生労働省】 令和8年版 厚生労働白書 概要版(高齢者人口は2040年頃ピーク/テクノロジー導入状況)
- 【厚生労働省】 令和6年度介護報酬改定の効果検証に関する調査研究(導入率 56.4%・47.2%)
- 【厚生労働省】 令和7年度補正予算案の概要(老健局関係)(補助率4/5)
- 【厚生労働省】 介護生産性向上総合相談センター 相談窓口一覧
- 【厚生労働省】 介護事業所・生活関連情報検索「福祉用具貸与」
- 【千葉県】 令和8年度 介護テクノロジー定着支援事業費補助金(上限額・期間)
- 【愛媛県】 介護テクノロジー定着支援事業費補助金(補助率4/5・上限額)
- 【岩手県】 令和8年度 介護テクノロジー導入等支援事業費補助金
- 【宮城県】 令和8年度 介護テクノロジー導入支援事業補助金(交付決定前の契約・購入は対象外)
- 【茨城県】 介護テクノロジー(介護ロボット・ICT)の導入支援事業について(補助率 5分の4)
- 【岐阜県】 令和8年度当初予算資料 介護テクノロジー定着支援事業費補助金
- 【島根県】 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(国1/2・県1/4・事業者1/4)
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。
