
「入居して半年。パンフレットで見たときは安心そうだったのに、いざ暮らし始めてみると、思っていた介護とちょっと違う——」。親御さんを住宅型有料老人ホームに預けたご家族から、こうした戸惑いの声は少なくありません。
夜は職員がほとんどいないと後から知った。必要かどうか分からないサービスがどんどん増えていく気がする。そんなモヤモヤの背景には、実はこの「住宅型有料老人ホーム」という仕組みそのものが抱えてきた課題があります。
そして今、その課題を正そうと、国(厚生労働省)が新しいルール案を動かし始めています。この記事では、なぜ「思っていたのと違う」が起きるのか、そしてこれからどう変わろうとしているのかを、親の施設選びで迷っているご家族の目線でやさしく整理します。最後に、失敗しない住宅型有料老人ホームの選び方として、今の時点で確認しておきたいチェックポイントもお伝えします。
「思っていた介護と違う」——なぜ起きる?
「住宅型有料老人ホーム」は、名前に「老人ホーム」とついていますが、介護そのものを施設の職員が提供する仕組みではありません。介護が必要になったら、外部の訪問介護などのサービスを別途契約して利用するのが基本の形です。この点が、介護付き有料老人ホームとの大きな違いです。
そして重要なのが、住宅型ホームには法的な拘束力を持つ人員配置の基準がないという点です。今は「届出制」で運営されていて、職員を何人置くかは施設ごとの判断に委ねられている部分が大きいのです。だからこそ、施設によって手厚さに大きな差が出ます。
ご家族が戸惑いやすいポイント
- 夜間の体制が薄い:夜は職員が常駐していない施設もあり、緊急時の対応に不安が残る。
- サービスが増えていく:同じ系列のケアマネジャーが担当し、必要以上のサービスが組み込まれやすいという指摘(いわゆる「囲い込み」)。
- 施設ごとの差が大きい:共通のものさしがないため、パンフレットだけでは手厚さを比べにくい。
「思っていたのと違う」の正体は、多くの場合こうした仕組み上の“ゆるさ”にあります。裏を返せば、良い施設を見分けられれば防げる部分でもあります。
これからどう変わる? 国が示した新ルール案
こうした課題を受けて、厚生労働省は2026年9月18日、住宅型有料老人ホームをより健全に運営させるための「登録制」の導入に向けて、事業者が守るべき登録基準の案を検討会に示しました。まだ検討段階の「案」ですが、方向性が見えてきています。
① 人員配置のルールが強くなる
案では、原則として夜間を除いて職員を常駐させること、管理者・生活相談員を1人以上配置することが盛り込まれました。さらに、夜間や緊急時には、必要に応じて職員が駆けつけられる「オンコール体制」の確保を義務付ける案も示されています。
② 「届出制」から「登録制」へ
今の届出制では、人員配置に法的な拘束力のある基準がありませんでした。これが「登録制」に変わると、登録基準を満たしていない事業者は原則としてホームを運営できなくなります。つまり、これまでよりルールの実効性が強まるということです。
③ ケアマネジャーの独立性にもメスが
先ほどの「囲い込み」への対策として、ケアマネジャーの独立性・中立性を登録基準に明記する案も検討されています。同じ法人のケアマネであっても、入居者本位で公正にケアプランを作れる体制を確保しよう、という狙いです。
⚠ ここが大切:まだ「これから」の段階です
ここで紹介した内容は、いずれも国が示した「案」です。厚労省は今秋に検討会の議論をとりまとめ、審議会への報告などを経て、年内の政省令の公布を目指すとしています。今後、内容が変わる可能性もあるため、最新の情報は自治体の窓口などでご確認ください。
失敗しない住宅型有料老人ホームの選び方|今できるチェックポイント
新しいルールが整うのを待つあいだも、施設選びは進みます。実は、ルール案の中身は、そのまま住宅型有料老人ホームの選び方の視点(=良い施設を見分けるものさし)としても使えます。見学や問い合わせのときに、次の点を確認してみてください。
見学・問い合わせで聞きたいこと
- 夜間の体制:夜は職員が何人いるか。いない場合、緊急時は誰がどう対応するのか。
- 日中の職員配置:管理者や生活相談員はいるか。介護・看護の体制はどうか。
- ケアプランの立て方:担当ケアマネは誰か。サービス内容の理由をきちんと説明してくれるか。
- サービスの選択肢:外部のサービスも自由に選べるか。系列サービスばかりに偏っていないか。
これらに丁寧に答えてくれる施設は、新しいルールが求める方向にすでに近い、信頼できる施設である可能性が高いといえます。逆に、質問をはぐらかされるようなら、慎重に検討したほうがよいサインかもしれません。
この記事のまとめ
- 住宅型有料老人ホームは、介護を外部サービスで受ける仕組みで、これまで人員配置に法的な基準がなく施設差が大きかった。
- 厚労省は2026年9月、日中の職員常駐・夜間のオンコール体制などを求める「登録制」の基準案を提示した(まだ案の段階)。
- 「囲い込み」対策として、ケアマネの独立性を基準に明記する案も検討中。
- 住宅型有料老人ホームの選び方のポイントは、夜間の体制・職員配置・ケアプランの立て方・サービスの選択肢を確認すること。
親御さんの住まいを選ぶのは、ご家族にとって大きな決断です。制度が良い方向に動き始めている今だからこそ、正しい知識を味方につけて、納得のいく選択につなげていただければと思います。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。記事内の登録制・人員配置などの内容は国が示した「案」であり、今後変わる可能性があります。具体的な施設選びやご家庭の状況については、お住まいの自治体の窓口や専門家にご相談ください。
📋 参考・参照情報
- 【厚生労働省】 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第9回)の資料について(令和8年9月18日)
- 【厚生労働省】 参考資料1 登録基準に関する案と現行の標準指導指針等との比較(人員配置・夜間オンコール・ケアマネの独立性など)
- 【厚生労働省】 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 とりまとめ(令和7年11月5日)
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。